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5.健康食品に頼って健康を維持することはできない 

 朝は忙しいからといって朝食を摂らない人が増えて20代の男性では4人に1人、女性では5人に1人にもなっている。男女ともに40年前に較べると2倍近くに増えているのである。20代の若者の半数は朝食を毎日は食べていない。朝はぎりぎりまで寝ていて忙しいというのがその理由である。朝食を抜くだけではない。昼食を外食で済ます人は20歳代から40歳代の男性なら2人に1人以上、女性でも5人に2人弱いる。夕食も若手のビジネスマンなら2人に1人、OLでも3人に1人は外食で済ましている。20-39歳の世代でみれば、1日に3回、きちんと食事をする人は男性で62%、女性で76%に減っている。

 主食、主菜,副菜を基本にしたバランスのよい食事をしなければならない、もっと運動をしなければならないと思っていても、忙しい日常生活のなかでは実行しにくい。飽食と運動不足の毎日を過ごし、加工食品や外食に頼る人任せの食生活を送っていると、当然ながら自分の食生活に自信が持てなくなり、3人に2人は将来の健康に大きな不安を感じている。また、老齢になっても健康で元気よく過ごしたいと誰もが思うのであるが、中高年者には生活習慣病が蔓延していてそれができ兼ねている。そこで体によいと宣伝されている「健康食品」を利用する人が増えているのである。

「健康食品」とは、体の調子を整えて健康を増進する効果(保健効果という)がある食品やサプリメントなどである。食物の主な役割は、生命を維持するために炭水化物,タンパク、脂肪、ビタミン、ミネラルなど栄養素を補給することであるが、その他に体の調子を整え健康状態を良好にして疾病を予防する「保健効果」がある。日常に食べている食材には栄養素のほかに保健効果がある「機能性成分」が含まれていて、体の調子を整えて高血圧症や糖尿病などになるのを予防していることが科学的に証明されているのである。健康食品とは、このような保健効果がある食品成分(機能性成分、フードファクターともいう)を多く含んでいる食品やサプリメントのことである

 健康食品が市場に登場し始めたのは昭和40年代のことであるが、健康ブームに便乗して多種多様な健康食品が販売されるようになり、保健効果が期待できるもの、出来かねるものなど玉石混交の状態になってきた。そこで、厚生労働省は平成13年に世界に先駆けて「保健機能食品制度」を発足させ、人を被験者にした臨床試験を行って特定の保健効果があると証明できた食品を「特定保健用食品(トクホ)」として認可することにした。また、栄養効果があるビタミンとミネラルについて、その1日摂取目安量を補給する錠剤やカプセルを「栄養機能食品」として認可することにした。また、平成27年からは、特定の保健効果があると証明されている機能性成分を多く含んでいる食品やサプリメントであれば、個別に臨床試験を実施しなくても、「機能性表示食品」として販売できるようになっている。

 現在では整腸作用、高血圧抑制、血糖値上昇抑制、体脂肪蓄積抑制などの保健効果がある特定保健用食品(トクホ)が市販されていて、それらに含まれている機能性成分は食物繊維、乳酸生菌、オリゴ糖、機能性ペプチド、必須脂肪酸、EPA,DHA、ヘム鉄、CCM、大豆イソフラボン、茶葉カテキンなどである。その外に、古くから健康によいと信じられてはいるが、有効な成分がはっきり特定できず、効果試験も実施されていない健康食品がある。代表的なものは民間療法に使われてきた朝鮮人参、すっぽん、クロレラ、アロエやプルーンなどの成分を抽出,濃縮して錠剤やカプセルに加工したものであり、科学的根拠のある特定保健用食品、機能性表示食品と区別して「一般の健康食品」として販売されている。                        

 現在のところ、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、その他の一般健康食品 を合せると約5000種類の健康食品が販売されていて、年間総売上高は1.6兆円、その利用者数は5700万人と推定されている。このうちで、特定保健用食品(トクホ)として認可を受けているものは1087商品であり、その年間売上額は6400億円、機能性表示食品として届けられたものは2170商品、売上額は2400億円であると推定される。内閣府消費者委員会が平成24年に3万人を調査したところ、なにらかの健康食品を「ほとんど毎日」または「たまに」使う人は合せて6割もいて、50歳以上の人ならば3割の人がほぼ毎日使っているという。

 特定保健用食品(トクホ)は、認定保証マークを付けてその保健効果を表示することが許可されている。しかし、医薬品と混同されないように、その効果表示は厳しく規制されている。例えば、「血圧が気になる人に勧める」、「血糖値が気になる人に勧める」などと表示するのはよいが、「血圧を下げる」、「血糖値が下がる」など医薬品と同様に治療効果があると思わせる表示をすることは禁止されている。もとより健康食品は医薬品と違って誰でも自由に摂取できるものであり、摂取量、摂取期間も厳密には守られない。それに加えて利用者の健康状態、生活習慣も様々であるから、例え特定の保健効果があるものであっても、利用する人によってその効果が現れたり、現れなかったりするのである。また、効果があってもそれは穏やかな効果であり、発症してしまった高血圧症や糖尿病を治療できるほどに顕著なものではない。また、食事を疎かにしていてもこれら健康食品を摂取してさえいれば、健康状態がよくなると誤解する人が多いので、「食生活は主食,主菜、副菜を基本にバランスよく」と注意表示を併記するこになっている。

 近年、生活習慣病を予防し、健康への不安を解消しようとして、健康に良いとされている食品や食事に対する関心が高まり、自分の健康は自分の食生活で守ろうという意識が強くなってきたのはよいことである。しかし、健康を維持するにはバランスのとれた食事を規則正しく摂るのが基本であり、保健機能食品や健康補助食品(サプリメント)に頼るのは邪道である。栄養効果があるビタミン、ミネラルや保健効果がある食物繊維、EPAやDHA、大豆イソフラボンなどは、1日に20種類ぐらいの食材を組み合わせてバランスのよい食事をしていればその必要量を摂取できる。例え、少し足りなくても、同じような効果のある他の成分で補うことができるから、わざわざ健康食品を摂取して補給するまでもないのである。

  
  
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