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2.肥満になると生活習慣病が増える

  食物として摂取したエネルギーが消費されるエネルギを上回る状態が長く続くとエネルギーがづくと脂肪に変わって皮下組織や内臓周辺に蓄積され、体重が増え肥満になる。 日本人の標準体脂肪率は成人男子なら体重の5-18%、女子なら20-25%であり、それが男子なら25%、女子なら30%以上になると肥満である。体脂肪量は簡易に測定しにくいので、体重と身長から次式によりBMIを計算して肥満の度合いを判定する。   

 BMI(肥満度)=体重(キログラム)÷身長(メートル)の2乗 

 疫学調査によると、男女ともにBMIが22であると生活習慣病などにもっとも罹りにくいので、身長(メートル)の2乗×22を標準体重(キログラム)と定め、標準体重の±10%以内なら正常、±20%以上になると肥満、または痩せ、その中間を過体重または痩せ気味とするのである。この計算ではBMI 26.4以上が肥満となるが、判定を厳しくして25以上が肥満、18.5以下が痩せと判定する。身長が165センチメートルなら、標準体重は59.9キログラムだから、体重が68.0キログラム以上になると肥満である。平成27年の国民栄養調査によると、男性は30歳代から60歳代まで3人に1人が肥満、女性は50歳代から70歳代で4人に1人が肥満である。40年前までは男性の肥満者は5人に1人もいなかったのであるから、それ以来、肥満になっている人が著しく増加しているのである。なお、20歳代の女性は4人に1人、30歳代でも6人に1人が痩せと判定されている。痩せている若い女性が増えたのは、美容のために過度のダイエットをすることが多いからである。

  肥満はすべての生活習慣病のきっかけになる。食べ過ぎて過剰になったエネルギーは脂肪に変わって皮下組織や内臓周辺の脂肪細胞、特に内臓周辺の脂肪細胞に多く蓄積される。内臓周辺の脂肪細胞は余剰の脂肪を蓄積するだけではなく、食欲を調整するレプチンやインスリン抵抗性を生じるTNF-α、血圧を調節するアンギオテンシノーゲン、血栓形成を促進するPAI-1などの生理活性物質を分泌する内分泌器官として働く。だから、肥満、ことに内臓脂肪が蓄積した状態が長く続くと数多くの生活習慣病が誘発されやすくなる。もともと、肥満すれば体重が増え、交感神経が亢進して血液量と心拍出量を増やすから、末梢血管の抵抗が増大して高血圧になりやすく、体重が1キログラム増えると血圧は1-1.5mmHg上昇するといわれている。内臓の周辺に脂肪が蓄積する内臓肥満になると、末梢組織でのグルコースの取り込みを助けるインシュリンの働きが阻害されるので、糖尿病が誘発される。また、内臓脂肪が増えると、血液中の脂肪酸が多くなってインスリンの働きが鈍くなり、より多くのインスリンを分泌しようとして膵臓の負担が多くなり糖尿病を発症しやすくなる。こうして、血糖値が高くなるとその糖を脂肪に変える脂肪合成が始まるので、血液中の中性脂肪、コレステロールが高くなり高脂血症になる。これらの症状が複合して進行すると、動脈硬化が生じて高血圧、虚血性心臓疾患や脳梗塞などを発症するリスクが20倍にもなる。

 生活習慣病は高血圧症,あるいは高脂血症と単独で進行することは少なく,いくつかの疾患が相互に関係し合いながら同時に進行する。たとえば高血圧の例を挙げてみる。体内の血液は心臓のポンプ作用により大動脈を経て末梢の毛細血管に送られ、ついで静脈を通って心臓に戻ってくる。血圧とはこの動脈を流れる血液の圧力のことである。高齢になると細動脈の抵抗が大きくなり、その抵抗に打ち勝って血液を送らねばならないから血圧が高くなる。血液中の中性脂肪やコレステロールが多い高脂血症になっていると、動脈硬化や狭窄が生じてくるので,血流に対する抵抗がより大きくなって高血圧がひどくなる。慢性的に血糖値が高くなっている糖尿病になると、毛細血管の肥厚が生じてくるから血流への抵抗が大きくなり高血圧になりやすい。高血圧がひどくなると心臓の負担を大きくしても血液が十分に送れず,心臓に局所的な貧血を生じて狭心症や心筋梗塞を誘発し,脳血管に溢血や血栓を生じれば脳溢血や脳梗塞となるのである。 このように生活習慣病は個々に独立した病患のように見えるが、実は過剰栄養によって内臓周辺に脂肪が蓄積した内臓肥満から誘発され、お互いに関連して進行する「内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)」なのである。高血圧症、高脂血症、糖尿病がなければ心筋梗塞の発症は少ないが、高血圧症あるいは糖尿病があると2倍、どちらもあると8倍、さらに高脂血症も加わると実に35倍にも発症の危険が増える。これらを予防するには、まずBMIが22程度になるように体重をコントロールして肥満を解消しなくてはならない。

 高血圧症,高脂血症,糖尿病などは加齢とともに罹りやすくなる成人病,老人病であるが,平成8年以降は生活習慣病と呼ぶように改められた。なぜなら、これら疾患が発症し,進行するのに過食,運動不足,喫煙,飲酒などの生活習慣が大きく関わっていることが解明されたからである。生活習慣病は、その初期において生活習慣を改善して進行を遅らし、高血圧症,高脂血症,糖尿病というはっきりした病態にならないようにする「一次予防」が大切である。加齢に伴う成人病ではあるが、生活習慣を改善すれば進行を遅らせることが出来る病気なのである。平成18年の国民健康栄養調査によれば、50-69歳の男女は60-80%が境界型を含めた高血圧、15-30%が高脂血症、20-35%が糖尿病である。高血圧症の患者は4000万人、糖尿病患者は予備軍を含めて1900万人、骨粗鬆症の人は1000万といわれている。これらの疾患に重複して罹っている人も多く、生活習慣病患者は人口の3分の1、約4000万人に達している。そして、内臓脂肪面積が100平方センチメートルを超えて、腹回りが男性なら85センチメートル、女性なら90センチメートル以上になり、さらに高血圧、高血糖、高脂血の初期症状が2症状以上現れているならば、「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群」と診断される。該当する人は40歳以上で男性は4人に1人、女性は8人に1人、男女合計で1000万人、予備軍を合わすと1400万人と推定されている。メタボ肥満は生活習慣病の前段階であるから早期に解消しなければならない。

 肥満と生活習慣病の蔓延は、腹八分目に食べて健康に過ごすことを忘れ、欲しいだけ食べることから始まったのであり、そして国民医療費や介護費を増大させて国家の財政を圧迫している。生活習慣病は平成という飽食社会が生み出した「食源病」であると同時に大きな「社会病」でもある。                    

  
  
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