3.日本では食料危機に対する警戒意識が少ない
世界的な食料不足がいつどのような形で起きるかは予測しにくいが、起きたならもっとも大きな打撃を受けるのは、食料が40%しか自給できず大半の食料を輸入に頼っている日本である。それなのに、食料危機に対する警戒意識が薄い。大量の輸入食料に依存している現在の豊かな食生活は続けられなくなると警告しても、それは遠い先のことと軽く聞き流されてしまうのである。しかしながら、平成10年、食料自給率がとうとう40%まで低下して食料の安全保障が危うくなった時と、平成20年に世界の穀物需給が逼迫して輸入価格が高騰し、食料品の小売価格が相次いで値上がりした時には、あたかも食料危機が襲来したかのごとき騒ぎが起こった。
平成20年(2008年)は世界の農業史上空前の豊作であり、穀物生産量は対前年比で5%も増えて22億4000万トンに達していたのに、世界の穀物需給が異常なまでに逼迫して穀物価格が高騰した。まず、小麦の輸出量世界2位のオーストラリアを深刻な干ばつが襲うと、小麦の国際価格が3倍に高騰した。原油価格の高騰により代替燃料にするバイオエタノールの需要が3倍に増えると、アメリカのトウモロコシ輸出量が半減して国際価格が2.5倍に上昇した。中国の大豆輸入量が3700万トンに増えて世界輸入量の半分を超えると、大豆の国際価格が2.5倍になるなど、世界の穀物価格は2000年から2004年までの価格に比べて一時的には2倍になり、その後も50%程度上昇したままである。
そもそも世界で生産される穀物は、米、小麦、トウモロコシ、大豆の4品目が約半分を占めている。ところが、これらの穀物は生産国内で大半が消費され、輸出に回るのは生産量の一部なのである。米は生産量の7%が輸出され、小麦は19%、トウモロコシは12%、大豆は35%が輸出される。しかも、トウモロコシと大豆の輸出は4-5ヵ国でほぼ寡占されている状態であるから、これらの国々で異常気象や輸出制限が起きれば国際相場がたちまち高騰することになる。ところが、こうした世界の穀物需給の変動に対して日本はあまりにも無防備である。トウモロコシの自給率は0%、小麦は13%、大豆は5%であるから、海外相場の高騰は直ちに国内の食料品の値上げにつながる。畜産業界も飼料の75%を輸入穀物に頼っているから、食肉、乳製品の小売価格の値上げが起きるのである。 小麦を原料にするパスタは15-40%、パンは6-10%の値上げ、トウモロコシや大豆から絞る食用油は20%以上、牛乳は10%、チーズは10-20%の値上げとなった。砂糖も中国が大量に買い付けるため値段が2倍に高騰し、スーパーの店頭から砂糖の特売が消えた。
魚介類など水産物も資源の枯渇が心配されている。1950年ごろまでは年間2000万トンであった世界の漁獲量は、その後、急増して95年頃には9600万トンになっていた。しかし、魚介類資源の自然増加を上回る乱獲が続いたので資源が枯渇し始め、漁獲高は頭打ちになっている。わが国は四方を海に囲まれているので魚をよく食べてきたが、近年は近海での漁獲量が減ったので年間500万トンあまりの魚を輸入している。ところが、最近、欧米で魚は脂肪が少なく健康食だと見直されて消費が倍近くに拡大しているので、北米産のマグロやカニ、ノルウェー産のサバ、モロッコ産のタコなどがこれまでのような安値では買えなくなった。
食料を買えなくなるのは戦争などの非常時に限るわけではない。食料の国際相場が暴騰すると、食料輸出国は自国民の食料を優先的に確保するために海外への輸出を厳しく制限するから、高値を払っても買える食料がなくなるのである。我が国はそれまでトウモロコシ、小麦、大豆などを含めて世界市場の農産物の11%を買占めていたが、今では4%しか買えなくなっている。これまでのように、世界中からあらゆる食料を欲しいだけ買い集め、飽食できていた時代はすでに終わりつつある。