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神戸女子大学家政学部の教員になって、担当科目に食品加工学実習があった。週に2回、朝(9:00)から昼(12:15) までの3時間だった。クラス(1クラス40名)が4クラスあり、前・後期に2クラスずつ、1年間フル回転でこの授業を行った。

学生は口が肥えているので、作った加工食品を試食して美味しくないと納得がゆかない。興味を抱かない。実習内容も味を楽しみながら、しかも途中に現れる食品材料の色、香り、状態変化等を観察しながら勉強する必要があった。9:00からの授業ではプリントを用いて当日の説明を行う。15回終えると各レポートをまとめた1冊のファイルができる。将来、必要な加工食品があれば、すぐに使えるようなファイルを作らせた。各人写真入りの立派な分厚いファイルを作ってくれた。その間、階下の加工実験室では助手の足田さんが加工実習の準備を進めている。授業には2階の講義室と加工実習室を使って行った。学生は講義室での講義が終わって階下の実習室に移動して実習に入る。荷物が邪魔になるので、講義室で作業着に着替えて実習室に移動する。化学実験用白衣ではなく調理実習着に着替える。白の上着にグリーンの前掛けとズボン、頭にグリーンの帽子を被り、ちょうどデズニーの「白雪姫と7人のこびと」に出てくるこびとの様でおかしかった。

まず、甘いものが大好きな彼女らのため、ジャガイモデンプンの調製、大麦麦芽作り、水飴製造、そしてキャンデー製造を行った。キャンデー製造は、グループによってドロップス、マシュマロ、キャラメルの製造を行った。水飴製造の説明を黒板でした時、「金太郎飴ってあるよね。どの飴も同じ金太郎の顔が出てくるやつ、あの飴の作り方, どうするか知ってる?」と聞いた。まず熱い飴をよく捏ねて空気の泡をたくさん飴に巻き込んで真っ白い飴を作り、この飴に黒色や赤色を入れ着色し、これらを使って顔を作る。そしてまだ熱いうちにぐーんと引っ張る。長い飴ができ、細くなったところを割ってみると割れ口はどこも同じ金太郎の顔が出てくる、と黒板に絵を描くとみんなドッと笑った。味もそっけないデンプンが糊化してベタベタになる。これをαアミラーゼの作用でシャバシャバに液化し、βアミラーで甘くする。不思議だ。ここでは大麦麦芽の役割が大切である。大麦を暗所で発芽させ、数日後できたもやしを乾燥、粉砕し麦芽粉末とする。ジャガイモから集めたデンプンを糊化後、麦芽処理し、濾液を鍋の中で煮詰めて水飴を作る。舐めて次第に甘くなるところなど興味津々であった。次回の授業にはこれを使ってドロップス、マシュマロ、キャラメルを作る。ドロップスのグループは、水飴にさらに砂糖を加え煮詰めて、熱いうちに鉄板中に流し込み、冷えてから木槌で表面をたたき割り、小さくして出来上がり。口に方張ると甘くて美味しい。煮詰めた飴がまだ冷える前に攪拌した木ベラを空中にすっと引っ張り糸状にする。そのまま硬い細い糸になったのにはみんな驚いた。キャラメルのグループは、水飴に砂糖、加藤練乳、バターを加え、煮詰めてこれを鉄皿に流し込み、冷えてから取り出し包丁で切り、紙に包んで出来上がり。マシュマロのグループは水飴、ゼラチン、卵白をミキサーボール中に流し込み、混合物が硬い泡になるまで激しく撹拌し空気を十分に抱き込ませてから乾いた米粉の中に流し込む。しばらくして取り出す。紙に包んで出来上がり。いずれも美味しい。グループごとにたくさん作る。紙に包んだらお互いに分けあって1人で3種類のキャンデーを作ったこととした。家族と食べてと持って帰らせた。興味を持ってくれた。

缶詰製造実習も面白かった。ブリキ缶に物を詰めて、蓋をして、密封し熱殺菌することの体験は栄養士にとり重要だ。内容物は温州みかんを利用した。アルカリや酸液を使って内皮を完全に除去、全て可食みかんにする。美しいみかんの姿に感心する。シロップとともに缶詰に入れ、その上に蓋を載せる。各自1缶、自分の缶詰である。グループを集め、機械の前でホームシーマーの強力な2段階の回転で完全に密封状態を作る。回転部は危険なのでこちらでひと缶ずつ密封してゆく。完全に密封されたかどうか学生らの眼前で缶詰を手に取りひっくり返す。シロップが完全にもらないかどうか確認巣る。「うまくしまっているよね」と。1缶ずつひっくり返すと学生はなぜか笑った。調子に乗り吉本の喜劇が頭に浮かんで「シマッタ シマッタ シマクラチエコ!」とやったら学生らは大爆笑であった。後から話したことのない学生が来て、「先生はよしもとの関係者ですか?」と大真面目に聞いてきた。

授業では、学生は助手と小生との関係を興味深く眺めている。足田満吉助手は小生と年齢も一緒、小生同様企業人であったことなどからお互いよく理解し合えた。彼は食品を扱う仕事をやってきた現場のベテランで、学生に対しても衛生面で事故のないように細心の注意を払ってくれた。食品加工には大きな機械装置、熱媒体など危険な物も多く、実習室にはガスホースが縦横に引かれ、ガスコンロ、加熱沸騰の湯など危険なものが多い。非常に気を遣ってくれ事故などは全く無かった。前述のように口の肥えている学生相手に、出来具合にも気を遣ってくれた。学生からの信頼も厚かった。

食品加工実習室は製パン加工実習室でもあった。場所は月見山キャンパスの最も東側の建物(C館)1階で、製パン加工実習準備室、実習室とからなり、行吉哉女先生が力を注がれ本格的な製パン設備を整えられていた。足田助手にパン技術士の免許を取らせここを常駐させた。学内の西側一角には大きな慰霊碑がある。月見山キャンパスは戦時下亡くなった多くの方々の焼却場であったことから、哉女先生はその霊を慰めるために慰霊碑を作られた。お供物にパンが使われた。そのために製パン室が必要であった。このパンは、本学にたくさん定着していたカラス群のいい目当てであった。C館1階の製パン室が、このパンを焼いている場所ということをカラスは知っていた。C館は山肌を切り取ったところに並行に建ててあり、壁のような山肌をコンクリートで固め、建物との間は部屋のような空間になっていた。その上をプラスチック板をはり屋根代わりとしていた。空間は物置きがわりにしていた。製パン室で焼かれるパンの香りはその辺から空中に漂っていた。パンの副材料(砂糖、塩等)の入れ方は日によって変わってくる。人が食べるパンではなく捧げ物だからである。カラスにとっては、日によって違うパン材料は彼らの味覚に大きく影響する。パンの味が変わることはカラスには許せない。人気のないころカラスは群をなしてこの製パン室横の倉庫の屋根を襲ってくる。彼らは口に石ころをくわえて飛んできて、プラスチック屋根の上から放つのである。プラスチックの屋根は無数のひびが入っていた。お化けのようなこんな話を学生は喜んだ。

パンの焼ける管理栄養士を育成するという大目標がありました。パンはみんな大好きだ。パンがどうして膨らむのかも興味深いところだ。講義ではパンがなぜ膨らむのか、ゴムフーセンの膨らみとパンの膨らみを比較して話した。ゴムフーセンはある程度膨らみそれ以上空気を入れると破裂してペシャンコになるが、パンの場合はペシャンコにならないのはなぜか不思議である。グルテンタンパク質の熱変性とデンプン糊化の織りなす妙でしたね。各人には小型パンケースを与え、食パンを焼いた。パンドウの薄い膜がプッと膨らむのを覚えてますか?

その他、数々のものを製造しました。

最後の実習では、学生諸君が喜ぶと思われるチョコレート製造を行った。カカオ豆から板チョコ製造までを行った。講義では、カカオの生産地、栽培、収穫の説明から、チョコレートの栄養成分とおいしさの鍵について最新情報を伝えた。食品加工上面白い挙動を示す油脂(POS)の性質など興味深い性質がある。主原料のカカオはM社の友人からもらった。まずカカオをローストし上皮、芯を除き乳鉢で粉砕するところからはじまつた。加工実習室はカカオのいいロースト臭がした。コーヒーミルでカカオビーンズを細かくペースト状に粉砕する。カカオバターや粉糖などを加え加熱・攪拌を続ける。チョコレートを型に入れ、冷やし固まった板チョコレートを切り分ける。学生たちは自分たちで作ったチョコレートを満足げに試食して実験は終了した。「おいしい」けど「お店で売っているチョコレートと舌触りが違う」との声も聞かれました。これを知った新聞社が授業に飛び込み、学生は驚いた記憶がある。

本学管理栄養士国試合格率は100%でうれしいことだ。先日、卒生の上育代さんと京都駅でお会いした。彼女は京都駅前、堀井内科クリニックで管理栄養士として勤務している。色々話する中で食品加工学実習が出たので思い出しながら書きました。

  
  
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