塩はどのような料理にも欠かせないが、日本には岩塩が産出しないので、塩はすべて海水から採らなくてはならなかった。縄文人は海水を土器の甕に入れて煮詰めていたらしいが、弥生時代になると海水を海藻に掛けて乾かすことを繰り返して濃縮した塩分を洗い出して煮詰めるか、あるいは海藻を焼いた灰を水に溶かし煮詰めて塩を採る「藻塩焼き」が始まり、奈良時代まで続いた。

当時の料理は後世のように調味料で味をつけていないから、各自が小皿に入れた塩、酢、醬などを好きなように付けて食べるのである。(ひしお)は穀物や魚、野菜などを塩漬け発酵させたものであり、コメ、ムギ、マメなどを塩漬けにして醗酵させた穀醤は後代に味噌、醤油になるもので、鳥獣の肉に塩を加えて醗酵させた肉醤は魚醤や塩辛の類であり、野菜、果実、海藻などを塩漬けにした草醤は漬物の原型である。大量に獲れたアジ、サバ、イワシなどは塩漬けにして保することもした 

やがて、このころから海浜に設けた塩田に海水を撒いて天日で乾かし、その砂を洗いだして煮詰める塩田製塩が徐々に始まったが、海水を汲んで塩田に撒くのは重労働であり、当時の塩は1升が米升と交換できる貴重なものであった。 江戸時代になると、味噌、醤油、漬物に使う塩の需要が増えたので、堤防で囲った塩田に海水を引き入れる入浜式製塩法が開発されて、瀬戸内海の沿岸に広まった。塩の生産量は年間475万石に増え、その大部分が味噌、醤油、漬物、塩魚などの加工用に使われたのである。塩475万石を70万トンとすると、当時の人口、一人当たり1日、73グラムにもなる。現在、家庭用、業務用に使用している塩は合わせて一人当たり、41グラムであるからその2倍弱に相当する。

 我が国の食生活では伝統的に塩の摂取量が多い。戦前には一日に25グラムを摂取していたらしいが、戦後は次第に減り最近では13グラムぐらいになっている。それでも欧米人に比べると5グラムほど多い。原因は醬油、塩魚、干物、漬物、味噌汁、蕎麦、麺つゆなどに塩分が多いからであり、総摂取塩分の6割近くを占める。塩を摂り過ぎると高血圧症になりやすいので、成人男子は一日、9グラム、女子は8グラム以下に減らすよう栄養指導が行われている。塩分を減らすと味が物足りなく感じるのであれば、酢や出汁を上手に使って補えばよい。

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