精進とは肉食を止めて菜食をして心身を清らかに保ち仏道修行に励むことである。寺院で僧が仏に仕えるには、殺生禁断の戒律を守り、魚肉、獣肉は一切使わず、野菜、海藻、豆類、穀物だけの食事をするのである。禅宗寺院ではこのような食事を作って食べることが座禅をすることと同じ大切な修行になっている。 鎌倉時代、宋より帰朝して曹洞宗を開いた道元は食が心と一体になるように調理することを特に重要視した。私たちが食前食後に「いただきます」「ごちそうさま」と食べ物に感謝するのは道元が教えたことである。

 精進料理は「三徳六味」、「調理の三旬」を守って調理する。三徳とは柔らかな味、清潔なこと、法にかなっていることであり、六味とは苦、酸,甘、辛、鹹、淡を生かすことである。三旬とは材料の旬、調理の旬、味付けの旬を大切にすることである。これにしたがって、四季折々の食材を使い、その旬の味を生かして、味を柔らかく、清潔に調理することが重要である。この精進料理の調理思想は後世の日本の食事文化に大きな影響を残した。

 当時に書かれた「庭訓往来」には精進料理として、豆腐汁、自然薯汁、筍とワサビの汁、ゴボウの煮しめ、フキの煮しめ、昆布、あらめ煮、カブの煮物、たけのこ蒸し、カブの酢漬け、ミョウガの酢漬け、ナスの酢和え、キュウリの甘漬け、酢ワカメ、、煎り豆、松茸酒煎り、ヒラタケの雁煎り、うどん、そうめん、饅頭、などが挙げられている。平安朝までの日本料理は、魚鳥の生もの、干物、焼いたもの、茹でたもの、塩漬けであり、どれも味付けはされていない未発達な調理であった。しかし、中国禅寺の精進料理で作らている味をつけた煮物、和え物、酢の物、揚げ物、熱い汁などを取り入れたことにより、日本の料理が生まれ変わったのである。明治まで食べていた伝統的な和食は、獣肉を使用しないこと、野菜の料理がおいしいことが特徴であるといってよいが、どちらもその源流を精進料理に発しているのである。

 永平寺や高野山などの寺院では、参拝客を宿坊に泊め、精進料理を提供して寺の勤行を体験させている。また、京都の大徳寺や妙心寺の門前には精進料理専門の老舗料亭がある。

 

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