16世紀、わが国に来航したスペインやポルトガルの宣教師たちが驚いたことは、日本人が獣肉を嫌い、米飯と生魚や焼き魚、、野菜の煮物などを、畳に座って小さな膳と箸を使って器用に食べることであった。

 二本組の箸は遣隋使により中国から持ち帰られたらしく、聖徳太子のころから一般に使うようになった。当時の貴族階級は中国風に箸と匙を使って食事をしていたが、匙を使う習慣は平安時代が終わるころにはなくなった。粘り気ののある米飯を食べるのには箸で十分に用が足り、汁ものは椀に口をつけて飲むことにしたからである。

 箸を使って食事をするのであるから、食材は箸でつまんで口に入れられるほどに小さく切り分けて調理しておく必要がある。だから、日本ではこの頃より包丁とまな板を使い、魚を上手に捌き、大根や芋、ニンジンなどを梅花形や短冊形に刻む包丁さばきが発達したと考えられる。西欧では肉は塊のままで焼くか煮込み、食卓でナイフを使って切り分けるのが習慣であるから、上手な包丁さばきは必要でない。

 中国ではテーブルと椅子を使って食事をするが、朝鮮と日本では床に座って膳を使う。そして、わが国ではに奈良時代から一人分の飯と汁,菜を椀や皿に盛って各人ごとの膳に配る「銘々膳」という給仕方法が行われていた。この習慣は乏しい食べ物を公平に、あるいは身分、序列に応じて分配する知恵であるとも考えられる。銘々膳を使う習慣は明治時代まで続き、その後はちゃぶ台を囲み、近年は椅子に座って食卓で食べるようになった。しかし、家族一人ずつの食べる分量をあらかじめ取り分けて並べて置く習慣は今も残っている。

 さらに、家族の一人一人が自分専用の飯茶碗、湯呑みと箸を使うという世界的に見て珍しい習慣もこの時代から始まっている。西洋料理や中華料理では、食卓の真ん中に大皿や鉢に盛った料理を置き、自分の食べる分量を各自が取り皿に取り分けるから、自分専用のナイフやスプーン、皿などは決められていない。大皿の料理を自分の箸でとって食べる直箸(じかばし)を嫌うように、箸を使うマナーとタブーが細かく決められているのも日本食の伝統の一つである。

 私たちが日ごろなんとも思わずに行っている食習慣も、これを外国のそれと比較して初めてそれが日本独自の文化であると気づかされることが多い。私の「日本食の伝統」ブログでは、昔のことを今に比較して、あるいは日本のことを西洋に比較して分かりやすく解説することを心掛けている。そのことに注目してご愛読してくださるようお願いします。

 

 

 

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