お酒は適量を飲むのであれば「百薬の長」であるが、飲み過ぎれば百害がある。近年、欧米先進国では酒類の総消費量が少しずつ減少している。日本でも国民一人あたりの酒類総消費量をアルコールに換算してみると、平成2年には9リットルであったのに、その後は漸減して7.5リットルに減っている。フランスの12リットル、ドイツの10リットルに比べれば少ないが、日本人はアルコール分解酵素が欠如しているか、あるいは弱い人が40%いることを考慮すれば、これで十分に足りているのである。ビールも発泡酒を含めて最近の20年で15%も消費が減少した。高齢化社会になり、飲酒が健康に悪影響を及ぼすことを懸念して多量に飲むことを控えるようになったからである。

 日本人の適量飲酒量はアルコール換算で1日、20グラムである。ビールなら500ミリリットル缶Ⅰ缶、日本酒なら1合、焼酎お湯割り1合、ワインならグラスに2杯が適量である。お酒を飲む男性について調査してみると、その大多数、85%の人が週に3回以上、適量か、あるいはその2倍までに自制している。いつでも好きなだけ飲めるのであるから、泥酔するまで飲まずに節度のある飲酒を心掛けているのである。

 今一つ、指摘しておかねばなならないことは若者の酒離れである。飲酒習慣のある若者は最近の15年で男女共に減少し、全体の11%になった。総務庁の家計調査を見ても20歳代の酒類購入金額は30才代の半分、60歳代の3分の1に過ぎない。その理由としてはスポーツやレジャーなど若者のストレス解消の楽しみが多様になったことあるが、それにもまして大きい理由はケータイ7やメールの普及で若者の人間関係が広く、浅くなり、会社の上司や同僚と一緒に飲む必要性が少なくなったからであろう。一緒に酒を飲まなくても、メールによって友人と即座に情報交換ができ、ネットゲームで現実逃避ができるのである。20歳代の若者は午後10時ごろにネットやメールをしながら、アルコール含量の少ない缶入りの酎ハイやカクテルをジュース感覚で飲むらしい。ワイン好きで知られるフランスでもワインの消費量は最近の50年間に半減し、特に若者のワイン離れが激しいそうである。

 この半世紀、日本の伝統的な食文化、酒文化はかつて経験したこのないほどに大きく変化した。食生活の変化に伴い、飲む酒は日本酒、ビール、ワイン、焼酎、低アルコール飲料などに種類が増え、飲酒の目的と場面は多様になった。お酒を飲む生理的効用は今も昔も変わることはないが、仲間と一緒に酒を飲むことなどはかつてのような大きい社会的役割を失いつつある。

1