和食が究極の健康食、長寿食として最近、見直され始めた。和食とは戦前まで私たちが食べ続けてきた伝統の日本食である。ご飯を主役にして、日本列島の豊かな自然が恵んでくれる魚介類、大豆、野菜、海藻などをバランスよく食べる和食は動物性脂肪が少なく、ヘルシーであると欧米からも注目されている。

 箸を取る前に「いただきます」というように、和書には豊かな食を恵んでくれた自然に対する日本人の深い感謝の気持ちが込められている。お米は漢字で八十八と書くようにお百姓が多くの手間をかけて作ったものだから、一粒の飯粒でも粗末にすると罰が当たるとと教えられたものである。季節ごとにとれる旬の魚介や野菜、果物、山菜などを大切に食べて、美しい自然を破壊することなく寄り添うように暮らしてきた日本人が育てた和食は自然にも、体にも、そして心にも優しい理想色である。

 では、和食とはどんな料理なのであろうか。料亭で出される贅沢な会席料理を別格とすれば、町の食堂で食べる刺身定食や天ぷら定食などがそれである。ところがこのような、ご飯とお刺身や焼魚、ニンジンやゴボウ、サトイモなどの煮物、ホウレンソウや小松菜のお浸し、それに味噌汁とお新香の付く一汁三菜の和食を庶民が食べるようになったのは江戸時代のことであって、それほど古いことではない。私たちが好きな握り鮨、天ぷら、ウナギのかば焼き、おでん、それに、うどん、そば、そうめんなどが普及したのも江戸時代である。和食に欠かすことのできない味噌、醤油、酢、味醂などの発酵調味料、出汁をとるのに使う昆布、鰹節、干しシイタケなどが出そろうのもそのころである。

 するとそれ以前の日本人はどのような食事をしていたのであろうか、縄文、弥生の時代からなら、平安、鎌倉、室町、安土桃山時代をへて江戸時代に至るまで、われわれの先祖は海を渡って隣国の中国、朝鮮と交流して先進の文化、文物を移入して世界に誇ることのできる優れた日本文化を築いてきたのであり、食生活においても例外ではない。稲、麦、粟などの穀物、、野菜、根菜、豆腐や納豆、酒、酢、味噌、醤油などの食材、それらを活用する精進料理など、どれをとっても源流は中国大陸にあるのである。それら海外の食材や食習慣を取捨選択して吸収し、わが国の風土と民族性に合うように変容させて日本民族独自の和食を作り上げるにはまでには千五百年の歳月に及ぶ食の遍歴を要したのである。

 その過程に込められた数多くの食の知恵と経験をこれから学ぶことにする。

 

 

 

 

 

 

 

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