かつて栄養状態が悪かった時代には結核や脚気が多く、国民病といわれていた。しかし、戦後の栄養改善によって低栄養型の疾患である感染症や栄養欠乏症は姿を消し、それに代わって栄養過剰型の疾患というべき、がん、脳血管疾患、心疾患、糖尿病などの生活習慣病が蔓延している。明治から第二次大戦までは栄養不足、欠乏症の解消が疾病予防の課題であったが、最近は栄養過多が原因となる肥満や生活習慣病を予防することに代わった。

 最近の国民健康栄養調査をみると、日本人の栄養摂取状況は、どの栄養素も平均摂取量が摂取推奨量を上回っているので、栄養は良いとみてよい。しかし、平均値は良いのであるが、摂取過剰、摂取不足になっている人が多いのが問題である。カロリー、タンパク質、脂肪のどれをみても、推定必要量の80-120%の範囲を外れて過剰摂取あるいは摂取不足になっている人がどちらも20-40%もいるのである。

 これを年齢層別でみてみると、男女ともに15-39歳の世代ではカロリー摂取が推定必要量に比べて8-13%少なく、60歳以上では逆に11%も多いのである。40歳以上の世代であればタンパク質も15-20%多く摂りすぎている。脂肪は15-49歳の世代で適正範囲を超えて過剰に摂取している。20歳代の女性はダイエットをしているためか、カロリー摂取が18%も少なく、体重が標準体重より20%軽い「やせ」の人が25%もいる。

 カルシウムは男女ともに15-49歳で摂取目標量に比べて12-23%も少なく、15-49歳の女性は鉄の摂取が20%近く足りない。ビタミンA,ビタミンB1,B2,ビタミンCなどは平均値で見れば大過剰に摂取しているにもかかわらず、不足している人が10-28%もいる。

 まとめてみると、中高年層は必要以上に食べすぎて栄養過剰、若年層は朝食を抜く、無理なダイエットをするなど不自然な食生活をしているので、栄養不足である。豊かな食生活ができる社会でありながら、飽食と栄養不足が共存している。

 

 

1